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こんにちは。甘利です!!
今日のテーマは
「退職者分析」
さて、新しい年度が開始され新しい職員さんも増えてきましたが、退職者が3月に出ていたのも事実だと思います。
「入って来れば出て行った人たちのことはどうでも良い」「医療業界は退職者多いからね〜しょうがない」などと考えてしまうのは非常にリスクです。
というか、非常に組織としてマズイです。
退職者の分析をせずして、健全な経営はできません。
なぜなら、退職者の退職理由が、その組織の通信簿の側面があるからです。
退職者の傾向は?(看護師を例に)
退職者は理由もなく退職はしません。
必ず何らかの理由で退職をします。
こちらは2017年の病院看護実態調査の結果です。看護協会のHPから引用しています。
離職率が10%前後で横ばいというのを「維持されている」と捉えるのは危険です。
むしろ「環境が改善されていないから離職率が改善しない」と捉えた方が適切でしょう。
病床数でも差があります。99床以下、つまり中小病院の方が離職率が高くなります。
また地域特性もあります。
正規雇用の離職率は高い順に、神奈川県(14.7%)、東京都(13.8%)、大阪府(13.4%)、兵庫県 (13.1%)であり、大都市部で高い傾向が継続しています。都道府県別の詳細はこちらから。
従来から離職の要因と考えられてきた各病院の労働条件や教育体制による影響のほか、今後は病院の立地や病床規模、病床機能などによる離職率の差についても、より詳細に分析していく必要があると考えられます。
退職者の本当の気持ちは?
上記の様な調査は医療法人が取りまとめてアンケート協力しているので、正直その実態は「現場にあったものであるとは言いにくい」です。
本来は「組織上の課題」によって退職をしていても「自己都合退職」と計上していたり、広報的にも見栄えが良いキャッチにしていることも予想がつきます。
私も医療法人でこれら広報を一部担当していたので、表向きに不利になりやすい情報は積極的に載せない、というのが暗黙のルールであるのは承知です。
特に離職率というのは、その情報を元に採用に大きく直結する非常に大事なファクターになります。
最近は離職率を採用ページに載せることが主流になりつつあり、逆に載せていないことが「なぜ?」と勘ぐられてしまう時代になってきました。
経営的な側面では「なぜ本当に彼らは辞めてしまったのか?」というのを冷静に分析することが極めて重要です。
なぜ辞めてしまうのか?
職員がやめてしまう理由は、大きく分けて3つあると考えます。
1 組織そのものに魅力がない
魅力というと非常に抽象的な言葉ですが、例えば「やりがい」「達成感」「満足な給与」「経営理念への共感」「働きやすい風土」など様々なファクターがあります。しかしこれらは何を経営者が重視しているか、従業員は何を大事にしているか、その双方の「想い」が合致しないと歩みを共にできません。
例えば、どんなに素晴らしい給与を支払っても、職員の仲が悪くて劣悪な勤務環境であればみんな離職してしまいます。
とてもコミュニケーションが取れる職場であっても、経営的な戦略がマトを外していたら倒産します。
双方の「想い」が全ての項目で合致することは極めて難しいです。しかし経営者の想いをビジョンや理念などを従業員の想いと包括し、それを「形」にして共有することが必要です。
2 長く働ける環境にない
例えば、女性の活躍促進。
女性が活躍するためには女性特有の悩みをケアする仕組みが大事です。
育児休暇や託児施設の利用は、もはや女性に限定したものではないのですが、まだまだ女性が育児をある程度中心的に行なっている家庭も多いのが現状です。これらの福利厚生が整っていない職場では、子育て世代の女性にとっては極めて働きにくい職場となります。
また男性においても育児休暇を取得する流れがあります。もちろん取得することが認められていますから、職場としても制度化して正しく運用することが必要になってきます。
2019年の4月から有給取得についての制度が大きく変わりました。
引用:厚生労働省リーフレット
簡単にいうと「有給をとってもらう様な仕組みにしないとダメだよ」ということです。
日本は働きすぎの割に、世界の国々と比べると生産性が低いと言われています(諸説ある)。
それらの改善は色々な場面で必要です。例えば以前のブログにも「会議の見直し」で記載している通り、普段の業務上の「無駄・無理・ムラ」を排除することが大事です。
この様に非効率な環境を改善して、少しでも長く働きたいという組織づくりを常に模索することが大事になっています。
僕が経営企画室長になった際に最初に取り組んだのはこの点です。託児所の分析と環境整備。そこで働く保育士さんの勤務環境の改善。利用制度の見直し、2つ目の託児所の新設。国や自治体の公の表彰を狙う。など様々な戦略を行ってきました。
3 人間関係が悪い
多分これが一番多い離職の原因でしょう。
そしてその離職に繋がる人間関係の原因のほとんどが「上司や先輩」だと思います。
つまり、入社年次が比較的近い同僚と相性が合わないということは思いの外少なく、離職に繋がる様な悩みを感じやすいのは上司や先輩が大半なんです。
「ハラスメント」という考え方がだいぶ医療機関でも良くも悪くも浸透してきて、これまでは職人気質である医療者には「時間外も勉強会をして当たり前(もちろん無給)」「厳しい言葉使いで罵倒したり(学生指導なども含む)」、「教育」という名の下に大小それぞれのハラスメントが横行していたことは隠すことができません。
特に医師の時間外労働の基準については、確かに質の高い医療提供の観点からは必要な部分もありますが、もはや常軌を逸したものとすら感じてしまいます。
引用:毎日新聞 (2019年2月20日)
私たちは、専門職という素晴らしい「プライド」を持って勤務していますが、それが逆に壁となって「隣の職種・職域の仕事には手を出さない」という風潮が極めて色濃く残ってしまっています。
しかし、これからの人財不足の医療介護業界において、自分の専門性を維持することなどは当然のことであり、それからどれだけ「隣の職種と手を取り合えるか」に尽力する必要があると考えます。
退職理由を改善することが必要不可欠
上記のような背景によって職員の多くは退職しています。もちろん家庭的な事情やキャリアアップのために退職する人もいますが、今の環境に満足していれば退職は少なくなるはずです。
採用コストは1人70万円ほどと言われています。広報や人事職員の手間や労力、書類作成の時間、などなど。
それだけコストをかけて採用しても辞められてしまっては経営を圧迫します。
また数年働いてもらってやっと慣れてきたとことでの退職も、次の人を育てるために一から教育をしていくことを考えなければなりません。
ここにもコストが発生します。
だからこそ、退職者分析して対処方法を考えることが、とっても大事な戦略だと言えます。
退職者分析をするとどうなるか?
退職者分析の意義は?
コスト上の課題もありますが、分析の意義を反論を恐れず言うならば、私はこれだと思っています。
「上司の改善点を明らかにするため」
です。
過激な言い方ですが、これに尽きると思います。
どんなに仕組みや環境が悪くても、それを改善しようとする上司には後輩はついていきます。
熱意ある経営者には身を捧げたくなります。
しかし、改善が必要と知っているのにも関わらずそれに目をつぶり改善を怠っている上司に対しては、部下は極めて冷たく辞めていきます。
それが結果として職場の空気感に繋がります。
相談しやすい雰囲気・後輩を育てようとする風土・職種間の垣根のない関係性など、それらの環境を構築するのが経営者をはじめとする上司の最大の責務です。
よって退職者を分析すると、上記の様な面に対する「上司の通信簿」が出来上がります。
実際に退職者分析を行うとどうなるか?
僕が医療法人で戦略企画室長の際、実際に全ての事業所の退職者分析をしました。
(めちゃくちゃ嫌がられましたが全てやりました。)
人事担当者、専務理事等と協力してこのプロジェクトを行うと、やはり予想通りの結果が見えてきたのです。
それは
「普段から部下からのクレーム(上司の対する相談ごと)が多い部署は、離職率が極めて高い」ということでした。
当たり前の結果といえばその通りです。
しかしそれを数値化する、というところまでは、多くの医療機関ではあまりやっていないと思います。
「あなたの部署は今年退職者何人で、そのうち職場や上司に不満があって退職したのは何人でした」と、
経営者は管理者の人事考課の際に数字を見せているでしょうか?
もちろん一時的に増えることがあるかもしれません。
それは色々なファクターが重なることもあるからです。(景気が極めて良くなって一般企業に流れた など)
しかし、例えば2年も3年も同じ結果が続いているのにも関わらす、その現場の管理者を長く配置させたままにするのは、経営者の怠慢と言わざるを得ません。
管理者を任命したのは経営者ですから、それを管理するのも当然経営者です。
管理者の人事考課は誰がやっているのか?
一般職員の人事考課はその部署の管理者がやります。
では管理者の人事考課は誰がやっていますでしょうか?
実は意外に管理者への人事考課が不十分な施設が多いのではないかと思っています?
「あの管理者はいつも遅くまで残業して頑張っているから、評価Aで」みたいな安易な評価が意外と管理者に対して行っていないでしょうか?
それは「貢献度」と言う不明瞭な尺度で管理者を評価する風潮があるとも言えます。
一般職員はある程度人事考課項目がはっきりしているけれども、管理者の人事考課の項目が定まっていないことがないでしょうか?
ここでこそ、離職者分析が人事考課に生きてきます。
組織は「人」が宝です。それは誰しもが理解しています。
だからこそ、その宝である「人」が組織から離れてしまった原因を分析し、その対策を講じていくのは、経営戦略上、極めて優先順位が高い戦略分析になります。
退職者分析を管理者評価の項目にした結果
僕がこの分析をしたあと、どうしても離職率が高いままであった管理者は10年以上同じ勤務場所から異動となりました。
それからグッとその部署の退職者が減ったのは言うまでもありません。
この管理者の人を「かわいそう」と思いますか?
それは感情的かもしれません。そこで働いてきた職員さんは何年もたくさん辞めていったのですから、本来は彼らが「かわいそう」であり、もっと早く手を打つべきだったと反省するほうが正解だと思います。
異動になった管理者はどうなったか?
異動させると腐ってしまうのか?そう言う人もいるかもしれませんが、この時は腐りませんでした。
なぜか?
それは、経営者自らがしっかりと説明し「次で挽回してくれよ」と背中を押してくれたからです。
退職者が多かった管理者も最初から「退職者を増やしたい」と思って働いてなどはいません。
だいたいが、組織に対しての強い想いが空回りしていて、部下とのコミュニケーションがうまくいかなくなってしまった結果だからです。
異動になった管理者はその事実を理解し、違う部署で新しい気持ちで今でも努力をされています。
(後になって分かりましたが、その管理者も本当は「変わりたかった」と言っていたそうです)
完全に気持ちよく人事を行うことはできませんが、少なくても多くの退職者を出す原因が「人」に起因する部分が強いであれば、それを変更することも必要ではないでしょうか?
まとめ
人事というのは非常に水物で、とても扱いが難しいジャンルです。
そのため、経営者をはじめ管理者の方々は毎日苦労するテーマでしょう。
以前の医療法人の理事長に伺うと
「これまで何十年も経営をしてきたが、一番の悩みは「人」だよ。「人」とうまく付き合っていくことが経営者の最大の試練なんだ」と仰っていました。
まさに、それはこれまで苦労されてきたからこその言葉ではないでしょうか?
3英傑の織田・豊臣・徳川のタイプが違ったように、リーダーの形の正解は本当に分かりません。
その組織特有の風土や歴史、考え方、規模、年齢層、組織体制など、多くのバックグランドがあって判断されるべきものです。
今回は、あくまで僕が行ってきた業務改善ですのでご参考にいただければと思います。