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さて、今日のテーマは Vol.3「マトリックス型人員配置」
医療介護業界の管理(マネジメント)の一般例
さて、最近はセラピストの病棟配置が当たり前になってきて、一昔前のような「リハビリ部一括管理」から脱却がされようとしています。
それは介護施設へのセラピストの配置の流れからも後押しされ、例えばデイサービスや特養に、リハビリ部からの派遣ではなく、その職場の一員としてセラピストを配置するようになってきました。
すると、これまでは「リハビリ部のPTさん」みたいな扱いから「地域包括ケア病棟のPTさん」のように見られ方が変わってきたのです。
しかしどうでしょう?
配置上はそれぞれのフロアや事業所に配置させても、人事評価や労務、キャリア管理体制は「リハビリ部一括管理」から脱却されているでしょうか?
具体的には、通所系が分かりやすいです。
リハビリ部の母体はだいたい病院にあり、そこにリハビリ部長が席を置いています。
そして少し病院から離れた場所にデイサービスを展開しているモデルはよくあります。
その「少し離れたデイサービスで勤務するセラピストに対しては、誰が人事管理やキャリア管理をしていますか?」
デイサービス所属なのでデイサービスの管理者が人事労務管理をしているところがほとんどでしょう。
でも
「キャリア管理は誰がしていますか?」
事業所ごとだけでキャリア管理をすると、例えば介護士からの教育であればセラピストとしての教育はどうしてもできないので、「目標管理」「送迎」「電話対応」などの共通的事項や、「業務運営」に関する指導や教育が主体となります。
管理しないことにより、多くのセラピストが辞めていく
そのためPT・OT・STのスペシャリストとしての教育や人事管理はどうしても疎かになりやすく、僕が所属していた医療法人も「デイサービスに出したら出しっ放しでキャリア管理はしていない」と言うのが現状でした。
なので、デイサービスに配置換えしたセラピストの多くは年度末に辞めていくか、配置換えを強く希望したのです。
これは本当に悩ましく、1年間に毎年1割のセラピストが辞めていってしまったのです。
そのため、デイサービスには1ヶ月交代でセラピストを派遣したり、「法人としての決まりごとだから」と説得し「お願い人事異動」をしたりなど、かなり後ろ向きな介護サービスへのジョブローテションをしていました。
少し見直しはされていましたが、それでもセラピストをデイサービスに配置する時は
「介護施設での経験はこれから大きな意味を持つから勉強してこい」
と背中を押すのみに止まり、その後、様子を見にいったり、定期的に相談に乗ったりということもほぼ皆無の状態でした。
もしかしたら半年に1回の人事考課の時以外、全くないかもしれません。
それでは、不安な中で送り出されたセラピストは嫌になっても当然でしょう。
特に若いセラピストは、医療機関での臨床を希望する傾向にあり、まだまだ介護施設での勤務に抵抗を示す人も多いのが現状です。
マトリックス型人員配置という業務改善を提案
このような背景で、僕が戦略企画室長で行った改革は以下の3点です。
一つ一つ細かく説明します。
1 責任を明確にした。
これまではいわゆる「縦」の管理が一般的でした。
例えば、リハビリ部長がリハビリ課長に指示を出して、リハビリ課長は自分の課に所属する人を管理する。
そうすると「リハビリ部一括管理」の時には上手くいっていたものの、介護サービスを兼務していたり、遠方のデイサービスで勤務するセラピストが管理しにくくなってしまったのです。
具体的には、勤務表や休暇の申請などです。
それらはデイサービスの管理者が看護師・介護士である場合でも、完全にそちらに任しました。
いわゆる「横」の管理です。
しかし、セラピストの知識や技術については先ほども記載したように「横」の管理だけではスペシャリストとしての管理が不足します。
つまり職種という「縦」のラインが一本必要になります。
イメージとしてはこのようになります。
このようにする事で、普段の現場で発生する課題や取り組みについては現場の管理者がしっかりと横ラインで管理ができ、中長期的なキャリア管理は縦ラインで管理ができるようになったのです。
この体制にしてから、デイサービス等に配置したセラピストが辞めるという事がほぼ無くなりました。
2 看護・介護部とリハビリ部で平等な扱いにしてもらった。(病棟の看護部にぶら下がっているのではない)
ほとんどの医療機関において、病棟は「看護師」が管理者をしていますので、先ほどの考え方で行くと、病棟に配置するセラピストは横の管理として「看護師の管理」を受ける事になります。
多職種連携と言えども、20年くらい勤務しているセラピストが10年目くらいの看護師の管理を受けるという事に抵抗を覚える人もいたのです。
そこで私が所属いていた医療法人の病棟と老健は、看護・介護の管理者と並列に「リハビリの管理者」を置いてもらいました。
(通所などは母数が少ないので、この体制にはしませんでした)
それが先ほどのイメージ図でも確認できます。
このようにすることの大きな意義は「対等だから歩み寄れる」ということあります。
例えば、看護部は人手不足が慢性的にありますので、なんとかセラピストに手伝ってもらうように働きかけます。
「今日、入浴支援OTさん手伝って」
「食事前の患者さんの離床をPTさん手伝って」
「食事介助が必要な人をSTさん手伝って」
こういった「手伝って」が飛び交ってしまいがちです。
でもどうでしょう?
「僕らは看護師の手伝いをするために病棟にいるんではない・・・」
と反発したくなります。
しかし人手不足は現実としてどこの医療機関もありますので、なんとか病棟としても改善しなければなりません。
よって、ここで病棟の看護部とリハビリ部が対等な立場であれば、トップ会談ができるのです。
「看護師さんたちはお昼時忙しいですね、その時間帯はセラピストが病棟でリハビリができるようにして、できれば重傷者はそのまま離床して食事に誘導できるようにしましょう」
「セラピストさんも、少ない時間で毎日20単位ほど行うにあたって、患者さんの入浴や検査などの情報をできるだけ早めにシェアできるように看護師に伝達します」
など、お互いが尊重して歩み寄ることができます。
これがもし対等でないと
「セラピストさん、看護師は忙しいから手伝って」
と一方通行になってしまうのです。
できるだけこのような非効率な現象を減らすことが重要です。
3 セラピストの管理者からと、事業所の管理者からの2重での人事評価を受けられる仕組みにした。
普段の管理体制は上記の2つで整いました。
さて、ではデイサービスなどの離れた職場の人事評価・キャリア管理はどうしましょう?
やはり普段現場を見ているデイサービスの管理者に全て人事管理・キャリア管理を任すべきでしょうか?
これも限界があります。
1でも述べたとおり
そして、それをより効果的にしたのが、1次考課と2次考課の間で必ず「自分の専門職の上司から評価を受ける」仕組みを作った、ということです。
つまり1.5次評価。
具体的にはこうなります。
デイサービスで勤務している山田PTさんは、その勤務先の管理者である佐藤介護士から1次評価を受けます。通常ならそれで終わりですが、そのまま2次考課者に行かずに、遠くのリハビリ部長の広瀬OTの助言をもらいます。
例えば
リハビリ部長 廣瀬OT
「山田PTは、休みの日も部外の研修に積極的に参加していて、自立支援に向けた指導法を学んでいます。また学会発表も自主的に行い、自己研鑽に努めています」
など、普段のデイサービスの管理者では見えにくいスペシャリストとしての山田PTの評価を伝えます。
他にも、ボランティア活動や、後輩・学生指導、普段の挨拶、態度、そういった面も加点式にしたのです。
さて、こういう仕組みにして一番変わるのは誰でしょうか?
実は、リハビリ部長なんです。
だって、1.5次評価をするには「普段の様子をどんどん見に行かないといけない」からです。
本来、送り出した人がしっかりと見届ける。そういう流れが、若いセラピストにとっては嬉しく、モチベーションアップに繋がるのでしょう。
まとめ
以上、マトリクス型人員配置によって3つの具体的な変更を行ってきました。
もちろん、デメリットもあります。例えば時間と手間がかかるということ。
しかし、人事評価こそ、一番時間と手間をかける分野だと思います。
スペシャリストの評価と、普段の業務上の評価、2軸で行っていくことが医療や介護施設では効果的ではないでしょうか?
マトリックス型人員配置改革の概要